ドリーム小説




「はぁ」



放課後,誰もいない教室で私は自分の席に座っていてため息。
机の上には,昨日一生懸命作ったチョコレート。
大好きな,仙蔵先輩に渡そうと思って作ったチョコレート。
結局,渡す事は出来なかった。
何度も何度も渡そうと思った。
でも,そのたびに沢山の女の子が仙蔵先輩を囲んでいた。
綺麗な女の人。
可愛い女の子。
そんな子が,沢山。
仙蔵先輩はもてる。
ものすごくもてる。
私は沢山の女の子と同じように仙蔵先輩に恋をした。
たまたま委員会が同じになり,優しくされて,好きになった。
たったそれだけの事で,と思われそうだが,好きになってしまった。
好きにならずにはいられなかった。
だから,告白しようとバレンタインという今日この日に賭けた。
でも,出来なかった。
仙蔵先輩の周りにいる女の子達を見て。
嫌がるそぶりも見せず,笑顔でチョコを受け取っている仙蔵先輩を見て。
ああ,きっと私はこの沢山の女の子の一部としてしか見られていないんだろうと思ったから。
私なんて眼中にないと思ったから。



「帰ろ」



これ以上学校に残っていたって時間の無駄だ。
そう思った瞬間,







名前を呼ばれた。
声のした方を見ると,そこには仙蔵先輩の姿。



「ど,どうしたんですか?」



今現在考えていた人が現れたので,どもる。



に,用があってな」
「私に?」
「ああ」



いったい私に何の用だろうか。
もしかして,チョコ沢山貰いすぎて,食べきれないだろうから私にくれるとか!?
ダメですよ先輩!ちゃんと全部食べないと!



「これをに渡しに来た」
「これって・・・・・・」



差し出されたのは,綺麗にラッピングされている包み。



「去年はやっただろ?逆チョコだ」
「え」



逆チョコ?
何で仙蔵先輩がそれを私に?



「欧米ではバレンタインは女性からではなく,主に男性から物を贈るのが主流だ。私もそれに倣ってみたわけだ」
「はぁ,そうですか」



つまりは感謝の気持ちって事かな。
てことは,沢山の人にあげたんだろうな。
予算とか大丈夫だったのかなぁ。



「・・・・・・・人が告白しているというのに,何だその冷めた反応は」
「す,すみません」



思わず謝ってしまう。
あれ?先輩,いまサラッと何か言ったよね?



「まぁいい。所で,それは誰に渡すんだ?」



机の上に置いてある包みを見て,仙蔵先輩は言う。



「えっと・・・・・・・・・・」



先輩,あなたにあげるつもりでした。
なんて,口が裂けても言えるわけがない。
でも,さっき先輩が言った言葉が,空耳なんかじゃなかったら,



「いや,言いたくないなら言わなくても良い」



言ってしまっても良いような気がする。



「すまない。今のは聞かなかった事にしてくれ」



今にも立ち去ってしまいそうな雰囲気の仙蔵先輩。



「あ,あのっ。仙蔵先輩」



思い切って声をかける。



「わ,私,これ,先輩にあげるつもりでした!いつものお礼とかそんなんじゃなくて,本命です!」



言ってしまった。
思わず言ってしまった。
うっわ。すっごく恥ずかしい。
今の私絶対顔真っ赤だ!
先輩の事,見たいけど見られないよ。



「・・・・・・本当か?」
「え?」



小さな声がして,私は思わず先輩の事を見る。



「それは,本当か?」



目に入ったのは,耳まで真っ赤になっている仙蔵先輩の姿。
もしかして。
もしかすると,さっきのは空耳なんかではなく,



「ほん,とう・・・・・・です」



仙蔵先輩が本当に発していたセリフだったんじゃないだろうか。



「・・・・・・・・・・なんだ。両想いだったんだな」



笑う仙蔵先輩。
つられて私も笑う。
今,確信に変わった。
不確かだったものが確実に変わった。



私たちは,両想いだって事が。