ドリーム小説 目の前には視線を地面へと向けている伊作。
その視線の先にはめちゃくちゃになったチョコレートケーキが入っている箱。
バレンタインなので伊作にプレゼントしたのだ。
しかもめったにお菓子作りなんてしないのに手作り。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「えーっと・・・・・・・・・・」
黙ってケーキの残骸を見つめる伊作。
不運もここまでくれば誇れるんじゃない?
そう言おうと思ったけど口を閉じた。
だって伊作が泣き出しそうな顔をしていたから。





何でケーキが地面に落ちてめちゃくちゃになっているのか。
サッカーボールが当たったのだ。
伊作にケーキを渡した瞬間、サッカーボールが飛んできた。
場所が運動公園だったからボールが飛んでいるのはよくあること。
それが運悪く当たってしまった。
伊作が受け取ったケーキに。





「すいませーん、ボール取ってくださーい」
遠くから少年が叫ぶ。
少年はボールがケーキに当たった事を知らないようだ。
偶然らしい。
私は動かなくなった伊作の側に落ちているボールを拾う。
「今度は気を付けなさいよー」
ポーンと投げる。
少年は上手にキャッチして笑った。
「ありがとうございます。気を付けまーす」
ぺこりとお辞儀をして少年は駈け出した。



さてと、問題は伊作をどうするかだ。
少年とやり取りをしている間、動かなかったはずの伊作が動き始めていた。
と言っても口だけ動かしているだけだが。
から貰った物がから貰った物がから貰った物が・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
怖っ!!
何やってんの伊作!!
「ちょっ!!伊作落ち着いて!!」
ガシッと肩を掴んで揺さぶる。
「だって・・・・・・だってせっかくから貰ったのに・・・・・・」
目を潤ませる伊作。
お前はヲトメか。
「あ、でも大丈夫だよ
 たとえぐちゃぐちゃになって地面に落ちてようが僕食べるから」
「え?」
「愛があれば大丈夫だよ。ただ土がついてるだけじゃないか」
そう言って伊作はしゃがみこんでめちゃくちゃになっているケーキに手を伸ばす。
「ストーップ伊作!!」
その手をつかんで引っ張り上げて立たせる。
「お腹壊したらどうするの!!」
「大丈夫。胃薬あるから」
ああ、さすが保健委員長。
「それに愛があるからお腹なんて痛くならないよ」
「いやいやいやいや土にどんな細菌がついてるかわからないでしょ。
 お腹壊すからやめなさい!!」
なんなのこの子!!
食べ物は粗末にしちゃいけません!?
お腹壊したらどうするの!?
あああ、さんざん言ったのにまた手をのばしてる・・・・・・。
「伊作、ダメ!!」
怒鳴った。
ピタリと止まる伊作の動き。
「でも・・・・・・でも、がせっかく僕のために作ってくれたのに・・・・・・」
「なっ・・・・・・伊作!?」
伊作が泣き出した。
えええええええええええ私何かした?
確かに食べるなって言ったけど、それ伊作のお腹を心配しての事だからね!!
が作ったの、食べたいのに・・・・・・・・・・」
「な、泣かなくても・・・・・・」
ど、どうしよう。
困った。
うわぁ。周りの人の目が痛いよぉ・・・・・・。
あ、そうだ。
「伊作、私の家おいでよ」
「え?」
「あ、その前にスーパー行かないと」
「ちょっとまって。話がよく分からないんだけど・・・・・・」
察しろよ(無理だよ)。
「もっかい作るよ。だからスーパー行って、それで家行こう。
 だからそれ食べちゃダメ」
・・・・・・」
伊作は乱暴に涙をぬぐって、笑った。
「ありがと」