ドリーム小説
桜のつぼみが出てきたころ、卒業式が行われた。
卒業生を送り出すため、在校生は校庭に出る。
「ほらほら、泣かないの」
火薬委員会に囲まれた先輩。
私はそれを遠くから眺める。
先輩は、六年生がおらず、人数の少ない火薬委員の仕事をいつも手伝ってくれる、優しい先輩だった。
そして、私と恋仲。
本当なら真っ先に先輩の所に行くべきなんだろうけど、できない。
先輩が卒業してしまうという事実を受け入れたくないから。



「兵助」



先輩が私の事を呼ぶ。
ああ、呼ばないでください。
呼ばれたら、私は貴女の所に行かないといけないじゃないですか。
行きたくない。
でも、貴女の側にいたい。



「兵助は私の卒業、祝ってくれないの?」



先輩は笑って言う。
祝いたい。
でも、心から素直に祝うことはできない。
先輩と、離れたくないから。



「兵助」



再び、私の事を呼ぶ先輩。
私は先輩の元へと走る。



先輩・・・・・・卒業おめでとうございます」
「ありがと、兵助」



私が言うと、先輩はへにゃりと嬉しそうに笑った。
ごめんなさい先輩。
私は本当は先輩が卒業することを祝いたくありません。



「兵助、笑ってよ」
「え?」
「いつもみたいに、笑って。笑って見送ってよ」



先輩の少し悲しそうな表情。
私は口を開いて、言った。



「それはできません」
「どうして?」
先輩に、卒業してほしくないからです」



言うと、先輩は小さく、そう、と言って口を閉ざした。



「でも、先輩は卒業してしまいます。先輩と離れてしまうのは凄く寂しいです。
 だから」


ギュッと先輩の手を取り、顔をしっかりと見て言った。



「待っててください。私が卒業するまで待っててください」
「兵助?」
「来年、私が卒業したら、すぐに先輩の・・・・・・いえ、の所に行く」


顔が真っ赤になる
きっと、私の顔も真っ赤だろう。



「待っててもらえるか?」
「―――――ええ、勿論」



先輩は、真っ赤な顔をしながら優しく微笑んだ。