ドリーム小説




春が近付いてきて、少し暖かくなった頃の三年前。
先輩は卒業した。
僕と恋仲だった先輩は、卒業した。
その時僕達2人は、1つの約束を交わした。





恋仲といっても、先輩が本気で僕と付き合っていたかどうかは分からない。
僕は先輩が大好きだった。
いや、過去形なのはおかしい。僕は今でも先輩の事が大好きだ。
先輩と付き合っていた時は毎日が本当に幸せだった。
先輩が卒業してから何日かは部屋に引きこもって毎日泣いた。
じゃぁ先輩は?
自分で言うのもおかしいと思うが、先輩はそれなりに僕の事を好いてくれていたと思う。
それは自惚れではないはずだ。
先輩は2人きりの時、「孫兵、大好きよ」と言って、小さかったあの頃の僕の頭をそっと撫でてくれたりした。
先輩は周りにどれほど人がいようと関係なく、僕の傍にいてくれた。
でも本当に先輩は僕の事を好きでいてくれていたのだろうか。
それはもう確認できない。
だって先輩はもう卒業したんだから。
たまに遊びに来てくれると思っていたけど、先輩は一度も顔を見せることはなかった。
だからね、先輩。
僕は不安になるんです。
貴女が僕の事を好いてくれていたのか。
貴女が僕との約束を覚えてくれているのか。
もしかしたら貴女は僕の事なんか忘れて他の男の人と共にいるかもしれない。
でも僕はそれでもいいんです。
大好きな先輩が幸せなら、それで。










「孫兵せんぱーい!!」
卒業試験も合格し、あとは卒業式を待つだけのそんな日々。
突然三治郎と虎若が僕の元に走ってきた。
「どうした、そんなに慌てて」
「そんなこといいから!」
「来てください!」
僕の質問には答えず、二人は僕の腕を引っ張ってどこかに連れて行く。
「どこに行くつもりなんだ?」
「「そのうちわかります!」」





「つきましたー」
連れてこられたのは門だった。
正確に言うと、門から少し離れた場所。
近くもないし、遠くもない、微妙な所。
「ここに一体何の用が?」
問うと、2人はにんまりと笑った。
「あとは孫兵先輩が頑張ってくださいね!」
「それじゃぁ、僕達はこれで!」
2人はそう言うと、ダーッ、と門へと走って行く。
・・・・・・何なんだあの2人は。
僕は2人を目で追う。
と、門に人が2人立っていることに気付いた。
一人は、小松田さん(というかこの人いつまで事務員やってるんだろう)。
もう一人は、背中を向けているので誰だかはわからないが、女性。
小松田さんと仲良さそうに話をしているからきっとよく忍術学園に来る人なんだろう。
誰かの親類か?





「「せんぱーい!!」」



女性に向かって、三治郎と虎若が叫ぶ。
・・・・・・・・・・・・・・先輩?
今2人は、先輩と言った?
僕は女性の事を見る。
女性は、2人の声に反応し、振り向く。



「あら、三治郎、虎若。久しぶり」



先輩だった。
少し髪が伸びて、少し大人っぽくなっていたけど、先輩だった。
気が付くと僕は、物陰に隠れて、ひっそりとその様子を見ていた。



「せんぱーい、お久しぶりです」
「元気でしたか?」
「ええ、おかげさまで。2人は?」
「勿論元気ですよ!」
「僕達は元気な事が専売特許ですから!」
「ふふ、そうね」



クスクスと笑う先輩。
ああ、先輩だ。
先輩が目の前にいる。
夢にまで見た、先輩が。
傍に行きたい。
抱きしめたい。
なのに、僕の足は根っこが生えてしまったかのように動いてくれない。
どうしてだよ。
動けよ。



「2人とも、大きくなったわね」
「そりゃぁ」
「三年もたてば」
「そっか、三年もたったのね」
「―――――先輩」
「ん?なぁに?」
「どうして、三年間、遊びに来てくれなかったんですか?」



三治郎が、僕が先輩に聞きたいことを、言った。



「僕と虎若、ずっと先輩が来るの待ってたんですよ!」
「僕達だけじゃないです。孫兵先輩だって・・・・・・ううん、孫兵先輩が一番待ってたんです!」
「・・・・・・・・・・」
「どうしてですか?僕達から見ても本当に幸せそうだったのに、どうして孫兵先輩に会いに来てくれなかったんですか!?」



どうして。
それは僕が一番聞きたい。
どうしてですか、先輩。
「・・・・・・・・・・・・どうして」
気付いたら僕は、自分にも聞こえないくらいの大きさでつぶやいていた。




「―――――けじめをつけたかったの」
「けじめ?」
「卒業する時にね、孫兵と約束をしたの」
「約束、ですか?」
「ええ。とっても素敵な約束。私はその約束の日が来るまで、孫兵と会わないって決めたの」
「・・・・・・・・・・どうしてですか?」
「会いたいのを我慢して我慢して、そしてその日が来たら、素敵な約束の日がもっと素敵な日になる。
 だから私は三年間学園に顔を出さなかったの」



―――――好いてくれていた。
僕の事を、先輩は好いてくれていた。
今も、好いてくれている。
先輩は僕と交わした約束を覚えていてくれてた。
それも、その約束をもっと素敵な約束にしようと、三年間先輩は僕に会いに来なかった。
僕はちゃんと、先輩に愛されていた。



「それじゃ、その素敵な約束の日が今日なんですか!?」
「今日じゃなくて、もう少し先。その日が来るまでここに泊らせてもらおうと思ってるの」
「え!?本当ですか!?」
「ええ、本当よ」
「やった!あ、その素敵な約束の日っていつなんですか?」
「そうねぇ・・・・・・」



先輩は少し考えるそぶりを見せてから、言った。





「ねぇ孫兵、あと何日したら約束の日になるか教えてくれるかしら」





突然呼ばれた名前。
先輩が、僕の方を見てにっこりと笑っていた。



「なっ・・・・・・」
「なぇ孫兵、あと、何日?」
「あ、あと、五日です」
「そう、ありがとう」
「なん「『何で僕がここにいるのがわかったんですか』なんて聞かないでね。私一応この学園卒業してるんだから」
「あと五日ってことは・・・・・・」
「卒業式!?」
「正解よ」



ふんわりと笑うと、先輩は僕の所へと歩いてくる。



「孫兵」
「・・・・・・先輩」
「大きくなったわねぇ」



僕の目の前に立つと、先輩は僕の頬に触れる。



「昔は私より小さかったのにね」
「三年もたてば大きくなりますよ」
「あら、それは私に対する嫌味かしら?」
「違います!そんなんじゃありません。ただ・・・・・・」
「ただ?」



上目づかいで聞いてくる先輩。
昔は、立場が逆だったな。
僕が先輩を見上げて、話をしていた。
今は、それが反対になっている。



「ただ、寂しかったです」
「ええ、私もよ」
「だったら、どうして」
「聞いていたでしょう?素敵な約束の日をもっと素敵な日にしたいの」



ニコリと笑う先輩。
昔の僕だったらつられて笑っただろうけど、今は笑えない。
ずっとずっと、寂しかったから。



「もしかして、あの約束、破棄しちゃった?」
「とととととんでもない!!そんなことしません!」
「よかった」



ポスン、と先輩が僕に頭を乗せてくる。



「不安だったの。三年間一度も顔を出さなかったから、孫兵が怒って、約束なんか知らないって言ったらどうしようって」



少し、震えている先輩の声。
僕は先輩をそっと抱き締める。



「そんな事言ったりしませんよ。僕はずっと先輩の事が大好きなんですから」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「それに僕、先輩が卒業する時に言いましたよね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「今考えると恥ずかしいですよね。いえ、あの時も恥ずかしかったです。
 でも、言いたかった。先輩の事が大好きだから」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「だから僕は待ったんです。僕が卒業する日まで」
「・・・・・・本当にうれしかった」



今まで黙っていた先輩がゆっくりと口を開く。



「私が卒業したら、孫兵はきっと私の事なんか忘れちゃうんだろうなって思ってた。
 でもね、孫兵は私が一番欲しい言葉を言ってくれた」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「三年間何度ここに足を運ぼうかと数え切れないほど思った。
 はやく時間が過ぎればいいのにって何度も思った」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ねぇ孫兵、あの時の約束、言ってくれる?」



先輩が顔を上げる。
その綺麗な顔は、涙で濡れていて、僕はそれを僕の手で拭ってから言った。










「僕が卒業したら、僕のお嫁さんになってくれませんか?」





僕が言うと、先輩はとてもきれいに微笑んでいった。





「ええ、喜んで」



































――――――――――――――――――――
今まで書いた短編の中で一番長かった・・・・・・。
今思うとこの2人、小松田さんと三治郎と虎若の目の前でこんなことしてるんだよね。
恥ずかしい奴らめ。